野村尚志詩集1999年3月

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琵琶湖疎水

琵琶湖疎水







膝よりも低いくらいにしか
コンクリートのまあるい底を
冬のあいだは流れていなかった水が
いっぱいいっぱいまでになっていた
琵琶湖の放水の堰があげられたのだな
琵琶湖疎水沿いに歩いていて

(ひとりごとの川を流れていて

死んだ魚が流れていくのを目にして
六匹は見て白い腹で
流れていったので
春は死んだ魚をよく目にする季節なのかと思いました

ほころびそうなつぼみが
桜の枝に花咲くころには
濃い緑の木々を
山に分け登っていく小道の
あの
古びたお地蔵さんみたいになっていたい
赤い布を胸にかけて

(ひとりごとの川は流れていきます
(ひとりごとの川は流れていきます

山科駅へ降りていく細い階段に座ってほんとうは
(見おろす目には電車が走っていきますよ
痛いほどわかっていることを
思い出せないことにして
思い出そうとする

(そうしているうちに思い出せないことになってしまえばいいと思うから

死体です
魚の死体が流れていくのをたくさん見ます
(いつかひとりごとの川でなくなっていますように
(いっかおおらかに人とうちとけられるようになっていますように

春のうちまた琵琶湖疎水に来てみます

夕方になると
豆腐屋のラッパの音が聞こえてくる

(素直な人になれますように



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